学習に対する動機付けはeラーニングだから特別な方策があるというものではありません。従来の学習に対する動機付けと同様です。むしろ、インターネット上で一人で学習するという環境から、学習に対する動機付けは、対面授業に比べてより重要な要素となります。動機付けの中には、一般的に「単位取得が必要」、あるいは「成績が○○以上なら△△の報酬がある」といった外発的な動機付けと、学習自体に自らやりがいや意義を感じる内発的な動機付けがあります。外発的な動機付けは必ずしも学習者が好んでやる気を起こして学習しているかどうかはわかりませんので、できることなら、内発的な動機付けがあることが好ましいことです。しかし、現実に内発的な動機付けを学習者全員に与えることは難しいことから、まずは、外発的な動機付けから始めることがよいのではないでしょうか。そのため、「補完資料をeラーニングに載せたから学習したい人は利用しなさい」ではなく、ブレンド型のeラーニングでも授業の一部として、eラーニングを履修しないとそれ以降の学習に支障が出る内容にして、かつそのことを学習者に十分説明することが重要です。
学習の動機付け理論として、ケラーのARCSモデル1というものがあります。これは動機付け要素として、注意を惹きつけるAttention、学習者の興味と関連性のあるものを示すRelevance、目標を明確にし、学習者の力でそれを達成させるConfidence、そして、学習目標達成に満足感を持たせるSatisfactionが重要であるというモデルです(これらの頭文字からARCSモデルと称されています)。これを逆に捉えると、教員が、自分が教えやすいように授業を行い、自分の趣旨・興味に即した話を進め、練習問題や課題に対して自分で解いて説明し、予定通りの学習を終えたことに自分が満足する授業を行っていては駄目だということになります。
Webには膨大な様々な情報が掲載されていますので、eラーニングでは授業科目内容と学生の生活に関連したものをWebから抽出するのは容易です。例えば、電磁気学の電磁誘導方式といった難しそうな内容でも、学生が持っている非接触ICカードの乗車券や学生証と密接な関係があります(ICカードの中に電池が入っていなくてもICチップが動作する原理です)。このような学生の興味を惹きつける身近なものを例示することにより、学習内容が社会の中で役立っているという学習の真実味を感じさせることが重要です。また、出した課題に対して、ネットワーク上で議論させながら自分たちで考えてもらう手法も取れます。学習者の提出物を共有して閲覧できるようにすることも動機付けにつながると思われます。学生間の中でどのようなことが話題になっているかに聞き耳を立て、関連する最新の情報を授業の中で提供するといった、ちょっとした配意も学生の興味を引く上で大事なことです。
動機は学習を始めるきっかけになりますが、それを継続していけるかは学習意欲の有無に依存してきます。ですから、学習者が今どこまで学習が達成できたか、後、何をどれくらい学習すれば目標に達成できるかを、自分で確認できるようにしておくことも意欲の継続に重要です(学習意欲については「ICT活用によって学生の学習意欲を高めるにはどのような方法がありますか」を参照)。
(篠原 正典)
参考
- Keller J.M. (1983) Motivation design of instruction. In C. M. Reigeluth (Ed.), Instructional-design theories and models: An overview of their current status. Lawrence Erlbaum Associates.