概要
文化についても多様性があります。また、文化というと民族文化や国家文化のことを思い浮かべることが多いのですが、それ以外の種類もあることに注意しましょう。人々の集団があれば、そこに文化が醸成されてくる、ともいえます。
多様な文化
文化には様々な定義がありますが、ここでは前述したように、特定の人々の集団に共通した物事の考え方や行動のパターン、作り出す人工物などの総体と考えることにします。
一般的には文化というと民族文化や国家文化を意味することが多いようです。民族という集団は、その中で伝統を継承し、共通した特性を持つようになっていくもので、たとえば中国の漢民族は、中国本土だけでなく、台湾、シンガポールなどのアジア諸国にも進出し、また日本やアメリカなどの国々にチャイナタウンを作っています。いいかえれば、国という枠組みを越えて、民族としてのアイデンティティを確立しているといえます。また、国家という集団は、政治や経済の単位であるため、人や物の出入りをコントロールしており、必然的にその中に一つの共通性ができてくるわけです。アメリカや中国などの多民族の大国家でも、そこにはアメリカ合衆国や中華人民共和国という範囲に共通した文化ができあがっており、そこに居住する様々な民族は、それなりの共通性を持つことになります。いいかえれば、アメリカに住む漢民族は、漢民族の文化とアメリカ合衆国の文化を共に受容しており、矛盾する箇所については、それなりの融和を図って暮らしているのです。
次の図はさまざまな人間集団がさまざまな文化を持っていることを示したものです。
図 黒須(2007)
いいかえれば、文化には、国や民族の文化だけでなく、地域の文化(日本でいえば東京と大阪の文化の違いのようなもの)、家族の文化(生活を共にする家族に共通したやり方。たとえば風呂に入る順番のルールなど)があり、そのほかに世代の文化(若者文化と高齢者の文化など)、性の文化(男性の文化、女性の文化)、組織の文化(学校や会社に固有の文化)、宗教の文化(宗教は一般に文化的な規範を強くもちますが、その規制力は国によっても世代によっても異なります)などがあります。中心に位置する個人は、こうした文化の多重構造のなかに暮らしているわけです。
留学生と文化
留学生は、来日した場合、国家文化と民族文化の異なる環境に来たことになります。さらに、性や世代などの他の文化の側面に関しても、国家や民族によって異なる様相を示していることが多いため、いわば生活のあらゆる側面において異文化体験を強いられることになります。
学校における先生と学生の関係、学生同士の関係、異性との接し方、アパートにおける住民同士の関係、ゴミの捨て方、音楽などの音環境や炊事などの食環境、店でのものの買い方や食堂での注文の仕方、チップの有無、右側通行と左側通行の違い、等々。数え上げればきりがありません。
こうした文化的な違いは、時にカルチャーショック(culture shock)を引き起こし、それがもとで不登校のような不適応行動を起こしてしまうこともあります。こうした点については、学生を甘やかさない範囲で適切なサポートをしていく必要があります。
(黒須 正明)