概要
留学生については、日本人学生に対するものと同等の配慮に加えて、留学生特有の事情や状況に対する配慮が必要になります。一つはコミュニケーション手段に関するもので、もう一つは文化、すなわち学習環境や生活環境に関するものです。
コミュニケーションに関する配慮
コミュニケーションのための基本的な手段は言語ですが、それだけではありません。コミュニケーションは、バーバルコミュニケーション(verbal communication)、すなわち言語によるものと、ノンバーバルコミュニケーション(non-verbal communication)、すなわち言語によらず、身振りや表情によるものとに大別されます。
バーバルコミュニケーションは会話などの言語によるコミュニケーションですから、言語が異なるとコミュニケーションが成立しません。メッセージの送り手と受け手の双方が利用する言語を理解していなければなりません。これについては別に説明をします。
ノンバーバルコミュニケーションは言語を利用せず、身振り手振りや表情、視線、服装、声の出し方などを利用したコミュニケーションです。特に表情の影響力は大きいことが知られています。このノンバーバルコミュニケーションは言語を利用しないから万国共通とも思われやすいのですが、実はそうではありません。
たとえば手招きをするときに、日本では掌を下にしておいでおいでをしますが、掌を上にしてやる文化圏もあります。また手全体でなく指を使う場合もあります。ただ、こうした違いは、仮にあったとしてもその大凡の意味は理解できるので、大きな誤解を招いたりしてコミュニケーションに阻害的な影響を与えることはありませんが、そうでない場合もあります。
最近はそれほどでもないのですが、以前の日本では、特に目上の人に対しては視線を合わせるのは失礼だ、という考え方がありました。しかし欧米では会話をするときに、相手の目を見て話すのが普通です。そうすると、日本人が欧米の人々と話しをしている時、相手に視線を合わせていないと、自分の話に興味や関心がないのか、と誤解されてしまうことが生じます。このような誤解が累積されると、思わぬ影響が出てしまうことになりますから、ノンバーバルコミュニケーションについての配慮は重要です。
また、表情やゼスチャーなどでは、意図的に行うものと、意図せずに行ってしまうものがあります。欧米では意図的に(日本人から見るといささか大仰なほど)表情やゼスチャーを利用することが多くあります。ただ、彼らにとってそれは自然なもので、無意識的に行っている場合も多いのです。しかし日本人は表情の変化やゼスチャーはあまり使わないため、彼らから見ると、日本人は表現が少なく何を考えているのか分からない、ということにもなりかねません。
だからといって日本人の教師が不自然なほど大げさに意図して留学生に対して表情や身振りを付ける必要はないでしょう。相手に迎合するだけがコミュニケーションではないからです。大切なのはお互いに相手の立場や背景を理解しようとし、尊重しようとする気持ちです。
バーバルコミュニケーションにせよ、ノンバーバルコミュニケーションにせよ、留学生とのコミュニケーションを円滑にするためには、彼らと言語的にコミュニケーションが取れるようにすることが必要であると同時に、彼らのノンバーバルコミュニケーションのあり方やそれによって表現されている気持ちや考え方を理解しようとする姿勢が必要です。
(黒須 正明)