背景
近年、大学の教員や研究者が、さまざまな人とコミュニケーションをとる機会が増えてきています(「大学における教育や研究という活動は社会的なものであるというのは、どのような意味ですか」参照)。少し振り返ってみれば明らかなのですが、昔から、大学の教員は、学生や教員のみを相手にしてきたのではありませんでした。そして、専門を同じくしていない教員との間のコミュニケーションがうまくいかない、という経験も昔からしてきていました。
このように科学を巡るさまざまなコミュニケーションは、「科学コミュニケーション」と呼ばれ、それ自体が研究対象となっています(たとえば、藤垣・廣野(2008)1を参照してください)。科学という営み自体が、研究者一人ではできないという意味で、また、科学の営みが社会に影響に及ぼし、社会のさまざまのことが科学の営みに影響するという意味で、科学という営み自体が社会的であると言われています。
「科学コミュニケーション」における問題の一つに、科学者と一般の人々とのコミュニケーションをどのように捉えるか?ということがあります。以前は、一般の人々は無知であり、科学者が一般の人々に一方的に科学の知識や成果を伝達する、と考えられていました。しかし、現在では、一般の人々でも、それぞれの生活の現場では十分な知識や技術を持っており、それぞれの現場での問題解決をしているのだ、と考えられています。
具体例
一般の人々というのは、たいへん曖昧な概念になりますので、もう少し具体的に分類した方が良いでしょう。
三輪・高橋(2010)2は、科学者へのインタビュー調査を行い、科学に関するコミュニケーションがうまくいかなかった事例を集めました。そこでは、コミュニケーションの相手として、以下のような例が挙がりました。
- 他の科学者
- 同領域の科学者
- 指導している学生
- 異領域の科学者
- 技術者
- マスコミ
- 行政官、事務官
- 教員(小中高校の)
- (学校の)こども
- 家族(同伴者、両親や親族、子ども)
このように、さまざまな相手とコミュニケーションを取る際には、コミュニケーション自体がうまくいかないことがある、ということを知っておくだけでも、意味があります。
(高橋 秀明)
参考文献
- 藤垣裕子・廣野喜幸 2008 科学コミュニケーション論 東京大学出版会
- 三輪眞木子・高橋秀明 2010 研究者からみた科学ミスコミュニケーション事例研究:原因と解決策 科学におけるコミュニケーション2009 総合研究大学院大学 209-231.