対面授業で教員が利用する教材は自分が教えやすい内容にしている場合が多いです。授業では教材の内容を棒読みするのではなく、説明を加えながら授業を進めるのが一般的です。ですから、内容の詳細については授業の中で説明することにして、内容の主要な項目のみをまとめたものを教材にするのが普通です。
近年、授業の中でプレゼンテーションソフトを使った授業が多く行われていますが、プレゼンテーション資料の内容は、ほとんどがこういった主要な項目をまとめた内容になっています。そのため、このようなプレゼンテーション資料がそのままeラーニング教材として掲載された場合には、その説明がなければ学習者はほとんど内容を理解することができないでしょう。
このようなプレゼンテーション資料と併せて、教員が講義する映像を同期させた教材がeラーニング教材として製作されています。資料だけだと説明が不足していたことが大幅に改善されます。しかし、対面授業においてプレゼン資料が用いられる場合には、説明箇所がポインターによって示されたり、教員が指示したりするため、学習者は教員の説明を受けながら、その箇所を目で追っていくことができます。場合によっては、教員はさらに詳細な説明を、板書により補うこともあります。そのため、eラーニング教材は、このようなことを考慮して、学習者が自主的に独学でもわかり易く学習できる教材とすることを心がける必要があるのです。
最も安価に製作できるeラーニングコンテンツは、実際の授業そのものを撮影して、教員の説明映像と教材、また、板書された文字も見えるようにした教材だと言われます。編集も行わなければ、授業そのものをeラーニング教材として用いることになります。このような教材に関しては賛否両論あります。実際の授業を撮影したものであるから対面授業と同様の効果を生むはずだと考える人もいます。ところが、受講者にとってみれば、その場にいて対面で授業を受けるのと、自宅のPC画面上でそれを見るのとは学習環境が異なります。90分の映像をPC上で連続して集中して視聴するのは難しいと言われています。また、対面授業の話し言葉で使われる「えー」、「あの」・・といった間投詞が多いことや、対面授業ではそれほど気にせずに使われている文と文との脈絡の不整合さが、PC画面上で聞いているとかなり気になるものです。放送大学の授業内容のように、TV画面を見て学習している学習者を想定して行っている授業であれば、視聴者は聞きやすいのですが、通常の対面授業の口述文をそのまま文書化したものは、日本語としても問題があるものが多いことから、生の講義映像を教材化したものは聞き取り難いといった問題が出てきます。対面でその場に居るから、間投詞の多用や文脈の不整合さに対して、許容度が高いとも言えます。
予め、eラーニング教材に転用することを前提として、PC画面の向こうの学習者を想定した対面授業が実践できれば、その講義映像はeラーニング教材化しても違和感は少ないのかもしれません。一方で、このような講義教材は著名な先生の講義を直接インターネット上で受講できるという面では好評です。
いずれにしても、「90分の講義を話題が変わる部分を目安にして、約15分程度の映像に区切って提供する」、「言葉の使い方や文脈等が整合した話し方に心がけるなどの方法を教員が考慮するようになる」、「板書や資料の文字も見えるようにする」などに配意されれば、講義映像がeラーニング教材として、そのまま利用できると思われます。それから、対面授業では問題とならない第三者の著作物の利用が、eラーニングではサーバ上に掲載して公開することにより(例え、アクセス制限がなされていたとしても)、問題となる場合が起きます。そのため、対面授業で使っているからといって、そのままeラーニング教材として掲載できないという問題も起こりますので、第三者の著作物が教材に含まれている場合、著作権侵害にあたらないかどうかを確認する必要があります。侵害の可能性がある場合には利用を控えた方がよいでしょう。
(篠原 正典)