インストラクショナルデザイン(ID)は良い授業を行うために、事前に計画を立てる授業設計として古くから用いられてきています。良い授業とは教育活動の効果・効率・魅力を高めるものです。この授業設計を支援するプロセスをIDプロセスと呼んでいます。
そのIDプロセスにはいくつかのモデルがありますが、代表的なモデルとしてADDIEモデル1というものがあります。これはAnalysis(分析)、Design(設計)、Development(開発)、Implementation(実施)、Evaluation(評価)の一連のプロセスを示しており、この評価をもとに、更なるフィードバックをかけていく流れになっています。
分析(Analysis)では学習活動の現状、状況、学習者のニーズ、あるいは社会から求められる要望などを基に、次の設計(Design)でどのような授業を行うかを考えます。一般的な対面授業では教員は授業の目的やどのようなことを身に付けさせたいかを把握していると思われます。
ところが、学習者の学力レベルが変わったり、あるいは社会の変化に伴い学習すべき内容が変わったりするために、設計の見直しが必要となります。また、特に多様な学習者が多くなると、如何に学習者に集中して学習に取り組んでもらうかについて考える必要が出てきます。大教室での授業なのか、それとも少人数での授業なのかによってもやり方が変わっていきます。対面で行う授業なのか、それともeラーニングで行うものかなどの議論も含まれます。
その結果、eラーニングの必要性と目標や期待される効果が明確であるならば、それを含めた授業を考えることが重要です。
このような観点から設計された授業のための教材を開発し(Development)、実施(Implementation)します。
教材開発においては、内容が学習目標に適合しているか、また学習者のレベルに適合しているか、内容の陳腐化はないか、学習者の視点にたった教材となっているか、必要によって効果的なメディアが使われているかなどを考慮します。
実施においては、学習全体の目標だけでなく、毎回の授業における学習目標を定めて、そのための授業実施が重要です。特にブレンド型のeラーニングを行う場合には、対面授業とeラーニングの実施を行い、その結果、教育活動の目標の達成度、効果・効率・魅力などを評価し、その結果を次の授業設計や教材開発、授業実践に反映させ、更なる改善を行っていきます。 IDプロセスの中では、さらに詳細な内容や考え方が用いられています。科目、学習内容、学習者によって具体的な内容は異なります。固定化された最良プロセスがあるわけではありません。eラーニングではインストラクショナルデザイナが必要で、日本にはその専門家が非常に少ないと言われています。
これまでの対面授業では、教員が学生に教える立場から授業がなされていましたが、eラーニングでは学生が学ぶという立場に立った考え方が必要になります。この考えは、近年、学生の多様化に伴い益々重要性を増してきています。
そのために、学習者主体の授業設計を考える必要性が出てきます。これまで授業を実践してきた教員とは、少し視点の違う見方が必要です。そのような考え方にたつ教材設計・授業設計を考える人がインストラクショナルデザイナです。
(篠原 正典)
参考
- ADDIEモデルの発明者は明確でない(Michael Molenda, “In Search of the Elusive ADDIE Model” Published in slightly amended form in Performance Improvement, May/June 2003, http://www.comp.dit.ie/dgordon/Courses/ILT/ILT0004/InSearchofElusiveADDIE.pdf)が学習理論の中で広く使われている (Learning-Theories.com http://www.learning-theories.com/addie-model.html) (2010年2月確認)