概要
ICT活用のFD事例を「教育・学習のための学者集団」の活動(Scholarship of Teaching and Learning ―SoTL)から見た場合、三つのメディア利用の特徴があります。第一に、デジタルビデオの利用、第二に、インターネットを通しての活動参加、第三に、教育メディア・センターの活動があります。
ICT活用FDの事例として「教育・学習のための学者集団」の活動(Scholarship of Teaching and Learning ―SoTL)の特徴の一つは、メディア利用と密接に組み合わされて推進されていることであり、それには三つのレベルがあります。
第一のレベル
SoTLの活動は、大学教育の経験の分析、蓄積、交流の媒体として、デジタルビデオなどを有効に活用しています(飯吉,2007)。授業をビデオに公録し、インターネットに配信するなど、多様な新しいメディアの活用は、これまでにさまざまな可能性をもたらしています。
第二のレベル
SoTLの活動は、ウェブを通じて全国に公開され、こうした活動に興味をもつ大学教員に影響をあたえています。同時に、大学教育は必ずしもSoTLに直接に参加していなくても、ネットワークを通じて、こうした活動への参加及び一定の寄与を行うことも可能であり、こうした意味で全国的な普及が進んでいます。
第三のレベル
個々の大学においては、SoTLの活動とは別に独立してさまざまな形で活動が行われますが、そこでは、教育メディア・センターが活動の核となる場合が多いです。
上記の三つのレベルのうち、とくに第三の点は重要であります。SoTLの創始者であるSchulmanは各大学における拠点を形成する核として、複合領域の研究センター、TAなどの訓練、学部学科に設置される教育改善センターなどとともに、メディア利用センターがありえることを指摘しています(Shulman,2004)。それはメディア利用が本質的に、公開性と不可分であることによっています。
メディア利用そのものはたしかに、教員個人にとって便利であり、時間を効率的に使うことを可能とすることによって、評価され、取り入れられるのですが、同時にそれが各人の教育実践を公開し、共有する媒体ともなります。そうした意味で、メディア利用にかかわる大学組織が、教員の教育力向上のきわめて重要な拠点ともなりえるといえるでしょう。
(苑 復傑)
参照文献
- 飯吉 透(2002)、「カーネギー財団の試み-知的テクノロジーと教育実践の改善」、日本私学高等教育研究所『アルカディア学報』、No68。 http://www.riihe.arcadia/arcadia66.html
- Shulman,Lee S. (2004), “Visions of the Possible: Models for Campus Support of the Scholarship of Teaching and Learning.” pp.9-24 in Becker, William B. and Andrews, Moya L. eds. The Scholarship of Teaching and Learning in Higher Education. Bloomington: Indiana University Press.