Q. 聴覚障害学生のための情報保障にはどのようなものがありますか

概要

個人によって聞こえにくさは違います。聴力が同じデシベルだからといって、同じ支援が有効とは限りません。まずは当事者のニーズを的確に把握するために、率直に話し合うことが重要です。

個人によって異なる聞こえにくさ

聞こえにくさは、1対1の会話、数人での会話、会議、雑踏での会話など、対話者との位置関係・場所の静けさ、広さなどによって異なります。また個人の聞こえ方は、障害の種類や程度のほかに、育ってきた家庭や教育環境、知識や経験の有無によって異なります。幼児のときから聞こえにくくなった人と、教育を受けある程度成長してから聞こえにくくなった人では同じ程度の聴力を持っていても、会話内容の状況の把握などが異なります。短絡にデシベルだけで判断し、サポートを機械的に決定しないことが大切です。一方的な先入観は持たずに、それぞれの聴覚障害学生のニーズを確認して、適切なコミュニケーション方法を探すように心がけると良いでしょう。

授業中にはどのような配慮が必要ですか

クラスでは、聴覚障害学生も健聴の学生と一緒に授業に参加できるように保障することが大切です。聴覚障害学生が講義の内容を把握するために必要な情報保障は、様々な手段があります。

情報保障のいろいろ

○ノートテイク

聴覚障害学生に対する講義保障として最も一般的に使われるのが、本人に代わって講義を聞きとり記述していく「ノートテイク」です。通常は1コマの講義に2名のノートテイカーを配置し、時間ごとに交代しサポートします。2名以上の聴覚障害学生が同じ講義を受講する場合は、OHC等を使う例もあります。その授業を理解し、要領よくノートを書いていく為には、ある程度の訓練が必要です。 大学の授業ですから、ノートテイカーは当該科目の知識のある人が望ましいと思います。

○手話通訳

手話はほとんどリアルタイムに近い状態で通訳をすることができます。1コマ90分の授業に2名の手話通訳者があたるのが一般的です。大学では、入試の面接・入学式・卒業式のほかに様々な発表会や報告会などで使われています。

○パソコン通訳(パソコン要約筆記・パソコンテイク)

パソコンで話者の音声情報を入力し、画面に表示したりスクリーンに映し出したりして伝えます。手書きであるノートテイクと比べて、情報量は多くなりますが、パソコンを使える環境や、クラス内での席の確保などが必要です。

気をつける点

大学の講義内容を、手話や手書き、あるいはパソコン入力で文字化し、聴覚障害者に伝達する仕事は誰でもすぐ出来る事ではありません。高度な専門用語もあれば、ある程度の知識を前提とした内容である場合が多いからです。一般の聴覚障害者に市役所や病院での手続きなどをサポートする手話通訳者が、こうした講義を通訳できるとは限りません。
授業担当者に前もって、講義の概要や専門用語に関する資料の提供、授業中の話し方などについて話し合っておくことも重要です。それによって通訳者の負担や情報保障の質量ともに大きく影響します。
大学によっては、同じ授業をすでに履修した学生の中からノートテイカーを探す大学や、学生の手話通訳者育成に力を入れている大学もあります。

(広瀬 洋子)

最終更新日 : 2010年4月1日