Q. 日本の大学のeラーニングにはどのような特徴がありますか

放送大学が2009年および2010年に行った文部科学省先導的大学改革推進委託事業「ICT活用教育の推進に関する調査研究」の中で、日本国内の調査結果と、米国、英国、韓国等、海外のeラーニングの先進国における調査研究の結果を比較していますので、簡単に紹介します。

こちらによると、海外の先進国と比較した日本の大学のeラーニングの特徴としてまず挙げられるのが、「1オンラインコースの学生数が少ない」という点です。海外の調査結果の例を挙げると、米国では約560万人の学生が少なくとも1科目はオンラインコースを受講しています。(The Sloan Consortium, 2010)
また、韓国では全大学の授業の7.7%がeラーニングで提供されており、約30万3千人が受講しています。(韓国教育学術情報院, 2010)

それに対して日本では、オンラインコースの学生数を直接調べている研究事例は無いものの、フルオンライン型の授業を実施している大学(学部・研究科)が全体の16.0%に過ぎず、そのほとんど(15.4%)が「1割~3割の科目で実施」と回答している(放送大学,2010)ことから、オンラインコースを受講する学生の割合が、海外の先進国ほど多くないと考えられます。
他に日本の大学における特徴として、「2LMSの導入・利用率が低い」という点が挙げられます。LMSとは、eラーニングを運用・実施する上で基盤となる学習管理システム(Learning Management System)の事をさしますが、このLMSの導入状況においても大きな違いがあります。例えば、米国では全ての高等教育機関の約93%がLMSを導入し、4年制大学の約60%が授業での利用を行っています。(Green, 2010)

また、英国においては全ての大学でLMSが導入されており、LMSの利用が必須の教育プログラムが約54%あります(Browne, 2010)。韓国の高等教育機関を対象とした調査でも、導入率が約70%という回答結果が得られています。(韓国教育学術情報院, 2010)
それに対して日本では、大学(学部・研究科)における導入率が40.2%、授業での利用率は25.3%に留まっています。(放送大学, 2010)
また、狭義のeラーニングの定義からは外れますが、授業で利用されるICTツールにおいても日本と海外では違いが見られます。

米国ではSecond Life(約50%の利用率)、Wiki(約30~40%)、そしてeポートフォリオ(約40~50%)といった双方向性を持ったツールが半数前後の大学で利用されています(Green, 2010)。また、英国においては、SNSが81%、Blogが59%、Wikiが51%、eポートフォリオが25%といった割合で利用されています。(Browne、2010)
一方、日本ではパワーポイント等のスライド(85.9%)、Web教材(69.3%)、ストリーミングビデオ(46.0%)といった知識伝達型のツールの利用率は高いものの、Blog(11.4%)、Wiki(8.4%)、SNS(6.4%)等の「3双方向性を持ったツールの利用率が低い」という特徴が見られました。(放送大学, 2010)

これら1~3の特徴を踏まえると、日本におけるeラーニングは先進国と比較すると、発展途上の段階にあると考えられます。

(辻 靖彦)

参照文献

  • 平成21年度・22年度 文部科学省先導的大学改革推進委託事業「ICT活用教育の推進に関する調査研究」委託業務成果報告書, pp.340-368
    http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/itaku/1307264.htm
  • The Sloan Consortium, Class Differences Online Education in the United States, 2010
    http://sloanconsortium.org/publications/survey/pdf/class_differences.pdf
  • Green, K.C. (2010). Campus Computing 2010: The 21st Survey of Computing and information technology in US higher education. Presented at EDUCAUSE Conference 2010, October, 2010.
  • Browne, T., et al. (2010) 2010 Survey of Technology Enhanced Learning for Higher Education in the UK. University and College Information System Association (UCISA)
  • 韓国教育学術情報院,2010 年度教育情報化白書
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最終更新日 : 2012年3月1日