概要
オンラインコミュニケーションツールを用いて教育効果を挙げるための、学習心理学の応用として、ここでは、認知主義の考え方とその適用例を示します。
認知主義の考え方
行動主義が「人間の行動が変わることが学習である」と考えるのに対して、認知主義では「人間の頭の中で知識が増大、変容、洗練されていくことが学習である」と考えます。このような「知識の増大、変容、洗練」を説明するために、認知主義ではスキーマという概念を導入します。
スキーマは、人間の頭の中にある断片的な知識の関係を示すものです。知識の関係には、「包含関係」、「順序関係」、「因果関係」などが考えられます。例えば、「犬、猫、猿は動物である」という包含関係、「春の次に夏が来る」という順序関係、「卵を落とすと割れる」という因果関係、などがスキーマの例です。人間はこのようなスキーマを使って、未知のことでも理解することができます。
例えば、「食事の最後に、彼はアイスクリームを、彼女はティラミスを食べた」という文章を読むと、ティラミスを知らない人でも、おそらくデザートに食べるケーキのようなものなのではないか、と考えることができます。これは、「食事の最後にデザートを食べる」、「デザートはケーキや果物である」というスキーマが働くためと考えられます。
スキーマの活用
学習者は誰でもあらかじめスキーマを持っていますから、これを活用することが学習の促進に有効です。グループで議論を行わせる場合にも、学習者がどのようなスキーマを持っているかを想定して、課題を決め議論のファシリテーションを行うことが重要です。
例えば、「現代社会における情報システムの有用性」を学習させたい、とします。このとき、「コンピュータで大量・高速のデータ処理が可能だ」、「ネットワークで遠隔のコンピュータとやりとりできる」といった一般概念を述べても、情報通信が専門の学生以外は実感が湧かないでしょう。
しかし、彼らが日常触れている情報通信サービス、例えば、携帯電話やインターネット物販などを例として、それらのサービス内容やサービスが実現される仕組みを課題として調べさせれば、情報システムの一般概念と日常の実例を結ぶスキーマが学習者の中で構成されるでしょう。
スキーマの変化
時には学習者が既に持っているスキーマが学習の邪魔をする場合があります。例えば、「重い物体は軽い物体より早く落下する」というスキーマは直観的には正しいように思えますが、物理法則としては誤っています。従って、物理法則を正しく理解するためには単なる丸暗記ではだめで、誤ったスキーマを正しいスキーマに変化させなくてはなりません。
このような目的にも、コミュニケーションツールを使った議論は有効です。そのためには、様々な事例を集めて、誤ったスキーマの矛盾を発見させ、矛盾の起きない仮説から新しいスキーマを導くような議論の進め方を促すことが有効です。
(仲林 清)