概要
授業で、緊急事態が発生した場合の対処については、危機管理の考え方が参考になります。また、学校安全についての知見も参考にしてください。
理論
授業中に大地震が起きるとか、学生が急病にかかるとか、犯罪者が乱入するとか、通常の授業ではほとんど起こらないことですが、危険な事態に時間圧力下で適切に対処しなければならないことがあります。このような状況に直面すると、通常の心理・行動・感情を制御することが困難になります。これは、大学という組織として取り組むべき課題ですが、教員個人としても備えておく必要はあります。
このような危機や緊急時の対応については、「危機管理」の考え方が参考になります。危機管理には、危機事態の発生を予防するためのリスク分析を扱う「リスクマネージメント」と危機事態発生後の対処方法を扱う「クライシスマネージメント」との2つの面があります。
危機状態が発生した場合には、現在発生している危機による被害を最小限に食い止めながら、危機の拡大を防止し、危機を正常な状態に戻す、ということを実行する必要があります。
危機管理では、以下の段階を区別することができます。すなわち、危機の発生を予防する段階、危機状況を把握し認識する段階、危機によって生じる損失や被害および危機への対策にかかるコストを評価する段階、危機への具体的な対策や計画を立てる段階、組織として具体的な行動を指示する段階、そして、最後に、危機への対策を評価し再発防止を検討する段階です。これらの各段階において、教員自身が通常時にセルフ・モニタリングを行い、対処できることは対処しておきましょう。たとえば、教室からの避難経路を確認しておく、緊急時の学生誘導を訓練しておく、といったことです。そして、緊急時にも、セルフ・マネージメントの考え方を参考に、冷静沈着に対処できるように心構えを持ちましょう。
学校における危機管理については、渡邉(2006)が小学校から高等学校までの学校教育を対象にしていますが、大学教育でも十分に参考になります。また、心理学においても、緊急時の行動についての研究(たとえば、池田(1986))や、リスク認知についての研究(たとえば、岡本(1992))などが参考になります。
(高橋 秀明)
参照文献
- 池田謙一 1986 緊急時の情報処理 東京大学出版会
- 岡本浩一 1992 リスク心理学入門―ヒューマン・エラーとリスク・イメージ サイエンス社
- 渡邉正樹 2006 学校安全と危機管理 大修館書店