概要
日本の高等教育においてFD活動の必要性は早くから指摘されてきましたが、それが明確に表されたのは1998年の大学審議会答申でした。2005年の中教審答申は「それぞれの大学等の理念・目標や教育内容・方法についての組織的な研究・研修(ファカルティ・ディベロップメント)を推進することが必要である」と述べ、2007年4月には、まず大学院におけるFDが大学設置基準において義務化され、2008年には学士課程についても同様の措置がとられました。日本ではいわゆるトップダウンのFDという特徴があります。以下の調査で、その状況の一端がみられます。
調査による現状把握
文科省の調査によれば、多くの大学がFDを行っています1。
また広島大学高等教育研究開発センターの調査(渡辺,2004)によれば、FDの内容として、講義の方法(79.8%)、学生指導方法(54.4%)、学生評価の仕方(51.5%)、カリキュラムの組み方(47.3%)、教員と学生との関係作り(43.5%)、テスト問題の作成(15.1%)、大学論(13.4%)、討論の技法(12.6%)、研究活動のあり方(8.4%)、社会サービスのあり方(4.6%)、管理・運営のあり方(4.2%)などがあげられています。
さらに2006年に、メディア教育開発センターの研究チームは全国の4年制大学705校(国立88校、公立73校、私立544校)を対象に、大学のウェブサイトからFDに関連する情報を抽出し、FDの関連組織、内容、方法、実施形態を調査しました。
この結果によれば、FDの実施は、大学教育改善関連センターが主体として行なっているものが83件、全学委員会などが78件、特定プロジェクトが4件でした。FDの形態としては、学生による授業評価が122件、FD講演会やシンポジウムが57件、授業公開や相互参観が23件、研修講座が41件、ハンドブックなどの公開が6件でした。
特徴
これらの調査から明らかになったことは、第一に実際になんらかの組織的な基盤をもって継続的にFDを行っているのはきわめて少数であると考えられる点です。FDと呼ばれているものの多くは学生による授業評価であり、研修講座については、年に1-2日の単発的なシンポジウムにすぎません。
第二に、FDの実施主体が、大学教育改善センターなどであり、メディア利用センターと関連してFDが推進されているアメリカと大きな違いがあります。日本における大学教育改善センター等が、人員も少なく、固有の施設をもっているところもきわめて少ないことを考えれば、これがFD活動の、いわば幅と密度の濃さに重要な限界を与えていることも当然といえましょう。
第三に、こうした組織上の制約のために、FD活動の成果を、インターネット上で記録し、公開するなど、大学内外への、FDの過程と成果の普及機能もきわめて脆弱です。このような意味で、FD活動の規模が本格的に拡大する条件ができていないといえるでしょう。
総じて、日本においては教員の教育能力向上の必要性が指摘され、それがトップダウンで政策的、制度的に推進されようとする一方で、具体的にそれを支える条件が全国レベルあるいは個々の大学レベルにおいて著しく欠けているといわなければなりません。
(苑 復傑)
注1
- 2005年の文部科学省の調査によれば、80.6%の大学でFDを実施している。
参照文献
- 渡辺達雄(2004)、「大学の教育支援体制の意識と行動-現状把握-」『 FDの制度化に関する研究(1)-大学長調査報告』有本章編、広島大学高等教育研究開発センター