Q. ITバブル期に特に米国の多くの大学がeラーニングを提供し、失敗に終わっています。その原因は何ですか。また、どうして、今eラーニングが盛んなのですか

1990年代後半にバーチャルユニバーシティやeラーニングという言葉が現れ、ITバブル時期と合わせて米国の大学を中心としてeラーニングが提供されるようになりました。インターネットが普及し始めたこの頃、それまでの遠隔教育に代わる新たな学習形態として脚光を浴び、特に有職成人を対象とした教育をeラーニングで提供する営利大学が参入してきました。
米国の多くの高等教育機関がeラーニングを進めた理由の一つに、在学者以外の潜在的な学生を取り込み、教育市場を拡大したいという要望がありました。そして、コロンビア大学、ハーバード大学、デューク大学、コーネル大学、ニューヨーク大学、テンプル大学などの名門大学が企業との連携によって営利部門や子会社を設立し、eラーニングコースの提供を始めました。

ところが、このような営利eラーニング部門は、コンテンツ開発などの初期投資が必要である一方、思ったほど学生数が集まらず、ITバブル崩壊と共に次々に消えていき、多くの大学が営利eラーニングから撤退することになりました。
また、このようなeラーニングによる教育市場拡大に便乗して、当時、ディグリーミルやディプロマミルといった学位乱発の問題が多く発生し、50%ルール1などの制定による資金補助の規制が行われてきました。
英国でも米国からのeラーニングの導入の脅威に備えて、2000年に英国政府とベンチャー企業が作ったUKeU(United Kingdom e-University)構想を立ち上げ、2003年3月にサービスを開始しましたが、2004年2月には廃止が決定されました。
廃止の要因はいくつか考えられますが、誤った設立タイミング、市場の読みの誤り、英国大学ブランドに対する混乱、サービス開始前の大規模投資(不完全なプラットフォームの開発)、市場開拓不足、民間からの援助資金不足2などが考えられます。しかし、当時でも、UKeUの失敗はeラーニング自体が失敗であることを意味するものではないことは、誰もが認めていました。

このように、一時失敗に終わったeラーニングですが、学生が時間と場所に縛られず学習できるのみならず、ICTを活用することによって、従来の対面授業では困難であった学生中心主義、構成主義、プロジェクト型学習、といった理論に基づいた新しい教育法が可能になり、より効果的な学習を行うことが出来るといった利点から、米国においてeラーニングは従来の対面授業を補完する学習形態として見直され、根強く定着していきました。対面授業を補完する形態や対面授業の一部を補うeラーニングの形態はブレンド型eラーニングと呼ばれており、米国を初め、英国、オーストラリア、韓国など高等教育でのeラーニング先進国では、そのほとんどが対面授業と併用して用いるブレンド型のeラーニングを取り入れてきています。また、オンライン教育は信用できるものとして認識されはじめ、2006年7月に先ほどの規制法律の一つであった50%ルールも除外されました。

現在、効果的な学習としてまた、教員の教育力向上の方法として、海外の大学ではブレンド型のeラーニングが多く利用されています。一方で、オンラインだけで学位取得が可能なフルオンライン学習を1989年から提供しているフェニックス大学は、現在でも30万人の学生を保有する企業大学として成功している事例もあります。

(篠原 正典)

参考

  1. eラーニングで単位が取得できる科目が50%以下でなければ、奨学金が減額あるいは支給されないという、インターネットが未だ普及していない1992年に米国で制定されたルール
  2. 「学習者等の視点に立った適切なeLearningの在り方に関する調査研究」報告書 長岡技術科学大学、メディア教育開発センター 2007年3月
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最終更新日 : 2011年4月1日