Q. 授業のためであれば著作物を公衆送信できるようになったと聞いたことがありますが、どのような場合に公衆送信できるのですか

平成15年の著作権法(以下「法」という。)の改正により、一定の条件を満たす場合は、授業のために公衆送信できるという規定(法第35条第2項)が設けられましたが、この規定は、対面授業を別の場所で授業を受けている人に同時に公衆送信するという、極めて限定的なものであり、実際にこの規定が適用されるケースは少ないのではないかと思われます。
具体的には、次の条件を全て満たす場合は、著作権者の許諾を得ることなしに、著作物を公衆送信することができます。

  1. 営利を目的としない教育機関であること
  2. 対面授業がある授業形態であること
  3. 別の場所で「授業を受ける者」のみへの送信であること
  4. 送信は「同時中継」であること
  5. 対面授業で配布、提示、上演、演奏、上映、口述されている著作物であること
  6. 既に公表された著作物であること
  7. 著作物の種類・用途、公衆送信の態様に照らして著作権者の利益を不当に害さないこと
  8. 慣行があるときは「出所の明示」をすること

1の「営利を目的としない教育機関」には、国公私立の学校だけでなく、図書館等の社会教育機関、教育センターや職業訓練所などの組織的・継続的に教育機能を営む機関も含まれます。

2ですが、この規定は、対面授業を同時中継するためのものであり、対面授業が行われていない形態(例えば、生徒がいないスタジオで収録して送信するような場合)は対象外です。

3ですが、送信先は、別の場所で授業を受けている者に限定されていますので、放送大学におけるテレビ放送のように授業を受ける者以外の者でも受信できるような送信は対象外となります。

4ですが、送信は同時中継に限定されています。そのため、対面授業を録画してサーバに蓄積しておき、後からでもアクセスできるようにすることは対象外です(いわゆるサーバ蓄積型のeラーニングは対象外です。)。

5ですが、送信できる著作物は、対面授業で直接授業を受けている者に配布、提示、上演、演奏、上映、口述されている著作物に限定されていますので、対面授業の生徒には見せず、送信先の生徒だけに送信することはできません。

また、6「既に公表された著作物」であることが必要ですから、生徒が先生に提出しただけのレポートなど、未公表の著作物については対象外となります。

7の「著作権者の利益を不当に害さない」ことですが、ワークブックやドリルのように元々生徒一人一人が購入して使用することを想定して作成された著作物を送信することは、権利者の利益を不当に害する可能性が高いと考えられます。また、受信者である授業を受ける者が極めて多数という場合は、権利者の利益を不当に害する可能性が高くなると考えられます。

8の「出所の明示」については、出所を明示する慣行がある場合は、合理的と認められる方法及び程度により、出所を明示することになっています(法第48条第1項第3号)。
また、翻訳、編曲、変形又は翻案したものを送信することもできます(法第43条第1号)。

なお、法第35条の規定は、法第102条第1項で著作隣接権にも準用されていますので、実演、レコード、放送及び有線放送についても公衆送信することができます。
繰り返しになりますが、法第35条第2項は、対面授業の同時中継を認める規定であり、サーバ蓄積型のeラーニングは対象外であることに注意してください。

(尾崎 史郎)

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最終更新日 : 2012年3月1日